産繊新聞社

テントはどんな構造をしていたの?

テントはどんな構造をしていたの?

 「テントは昔、なんて呼ばれていたの?」でも書きましたが、当時、構造によって呼び名が違っていました。棟を作る構造が「幄」で、棟のない構造が「平張」です。山岡浚明(まつあけ)(明阿)著の江戸時代の百科事典「類聚名物考」に次のような一文があります。「幄は、柱に長短あり、長きを中に立、短き柱を檐に立、屋形をなし、幔を懸たる物と見え候、平張は幄の柱を用ひ設くれども、屋の形をなさず、同じ長さの柱ばかりを用ゐて、庵をなさず、今いはゆる天幕をはると云が如くしたるをいふ類に候」。ちなみに奈良時代の文献に多く登場する「帷幕(あげはり)」という言葉は、「幄」の意味も「平張」の意味も含んだ言葉だと考えられます。
 ここで少し『年中行事絵巻』に登場する「幄」の構造を見てみましょう。そのほとんどが、今の集会用テントと同じ「切妻型構造」をしていますが、その大きさ(幅)には大小があります。有職故実大辞典には「7丈幄」、「5丈幄」、「2丈幄」があったと書かれていて、1丈は10尺、約3、03mなので、幅が約21m、約15m、約6mの幄舎が存在したことになります。「大饗雑事」には次のような記載が見られます。「二丈幄一宇、柱九本、棟一支、桁二支、梁二支」。つまり、2丈幄(W6m)は柱が9本、棟1支、桁2支、梁2支の構造であったと言うことです。ただ、この「大饗雑事」の柱の本数と桁の本数に関しては少し疑問を抱いています。柱が9本ということは幄の真ん中に柱があったということなので、これならば桁がもう1支必要となります。「年中行事絵巻」に描かれている2丈幄を見ると柱の本数は「9本」ではなく「8本」。このあたりの矛盾に関しては、もう少し時間をかけて調べていきたいと思っています。ちなみに『年中行事絵巻』の幄の絵だけを見ると1丈ごとに1本の柱が描かれていて、7丈幄ならば柱は18本、5丈幄ならば14本が描かれています。「類聚名物考」では構造ではなく単に幕を張っているものを「平張」というと記載されていますが、現段階ではその構造がわかる絵画を見つけることができていません。栃木県輪王寺の「舞楽図屏風」には棟のない片流れテントのような構造が描かれていますが、これには梁や桁を使っていますので、「平張」とは違うものと考えています。
 次に柱や棟、梁、桁の材質についてです。『年中行事絵巻』に描かれている幄舎は、柱や桁に木材が使われていることがわかります。ただこの件で興味深い資料が奈良の興福寺に残っています。興福寺が治承焼失後の復興を記した「養和元年記」の中に「幄」についての記載が見えるのですが、ここには「竹柱葺板上覆幔」と書かれています。幄舎の構造材は「木」に限ったことではなく、季節や場所によって「竹」を使うときもあったと考えられます。
 もうひとつ、興味深い調査報告があります。興福寺第一期境内整備事業の発掘調査で、興福寺中金堂前庭部に小さな柱穴や礎石が等間隔に並んでいることがわかりました。火災後の復興記録の「造興福寺記/永承元年(1046)」には、事始の儀式の際、東西回廊から約2丈(約6m)はなれた前庭部に南北棟の幄舎を建てて儀式を行ったという記載があり、奈良文化財研究所は、この柱穴や礎石が幄舎の跡ではないかという見解を発表しています。もしこのことが本当であるなら、皆さんは疑問を持たないでしょうか。テントはあくまで仮設構造で必要なときに建てるわけですから、礎石や柱穴が残るはずはありません。これについては、2つの仮説を立てることができます。ひとつは当時、仮設といえども「幄」は建てる場所が決まっていて、そのために柱穴や礎石が常時置かれていたということ、もうひとつは「養和元年記」の「竹柱葺板上覆幔」という記載にあるように板屋根に「幔」を被せた建屋も「幄」と呼んでいた可能性があることです。このあたりは、残っている資料が少なく、明確な結論は出せないように思っています。
 ちなみに韓国の歴史ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」や「イ・サン」、「トンイ」などには多くのテント構造物が登場していますが、その中に『年中行事絵巻』にあるような木を使った切妻構造に天幕を張る「幄」構造はなく、「平張」がほとんどです。また、王が座る席の上には大きな天幕が張られるのですが、張り方に特徴があって、大きな天幕(布)の中央に長い柱を立て布の両端を左右に引っ張るという簡易的な構造です。これらドラマを監督したイ・ビョンフン氏は、時代考証に優れた方といわれていますので、このあたりに日本と韓国の構造の違いを知ることができます。
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参考文献
興福寺第一期境内整備事業に伴う発掘調査既報Ⅱ/興福寺1999
興福寺伽藍地曳之図/享保14年興福寺伽藍再建事始地曳并法会之記
類聚名物考/山岡浚明

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