産繊新聞社

帆布について調べる

帆布について調べる

平成21年、新年を迎えた。ふたりともまだ就職が決まっていなかったが、三ヶ日が明けたある日、美帆は兵庫まで来る用事があり、久しぶりに理帆に連絡をとった。「ねえ、JR兵庫駅まで出てきてるんだけど、お茶でもしない」
直接、顔を合わせるのは高砂神社以来。理帆はうれしくて、急いで待合わせ場所の喫茶店に向かった。店内に入り私服の美帆を見つけると、手を胸元で振りながら「こんにちは」と駆け寄った。
話すことはたくさんあった。今、どんな会社を受けているのかとか、学校の友人はどういう方向に行く子が多いのかとか…。でも、結局ふたりとも就職が決まっていない現実に引き戻され、ふたりはモヤモヤとした気持ちになった。
すると美帆が急に立ち上がり「やめた、やめた。ここからは就職の話はナシね。折角久しぶりに会ったんだから何か楽しい話をしましょ。」と笑いながら言った。
おしゃべりは尽きなかった。一杯のコーヒーとオレンジジュースで1時間。カウンター越しに喫茶店のマスターの呆れ顔が見えた。

「ねえ、理帆。洋服作りが好きって言ってたけど、生地のことって詳しい?ほら、松右衛門は〝帆布の祖〟って言われているけど、そもそも〝帆布〟ってどういうものなの?」。
「感覚で言えば、分厚い生地のことをいうんだけど、正確な定義は私も知らないの」。
船の帆に使う布というのは判る。ただ、ふたりは昔の帆船を写真でしか見たことがなく、思い浮かぶのは港に停泊しているヨットの帆ぐらい。帆布といってもいまいちピンと来ないのである。

―昔の船の動力は〝風〟と〝帆〟であったことはよく知られているが、〝帆〟の素材が木綿布に変わったのは17世紀後半で、それまでは筵(むしろ)で〝帆〟ができていた。その後木綿の生産が増えることで木綿帆になるのであるが、最初は〝刺帆(さしほ)〟という2枚の綿布を四子糸で縫い合わせた布を使っていた。『廻船必要』には〝是は木綿二枚重(かさね)にし、四子糸にてさし、三幅綴合せ一反と唱(となう)〟と書かれている。ところがこの構造は破れ易く、修理にも時間がかかった。松右衛門はこれを〝織帆〟にすることで、強度のある〝帆〟を生み出したのである。―

「ねえ、ちょっとネットで調べてみようか」。
ふたりはネットカフェに場所を移した。パソコンの前に座りグーグルの検索エンジンで疑問に思ったことをひとつずつ調べていった。
「帆布の定義とは?」
〝木綿や麻の糸を平織りした厚地の布のことで、強度があるので船の帆として昔から使われた。通常の綿帆布は 経糸(たていと)と緯糸(よこいと)が10番手以上の太い糸を使用したもののことをいい、重量は1㎡あたり8オンス(約227g)以上の生地である〟

「帆布はいつから日本で使われているの?」
〝綿花は室町時代に日本に伝来したというのが通説で、身に着ける衣服の生地に木綿が使われだしたのはこの時代以降である。備後の国尾道では、小巾の木綿布が正徳(1701年)、享保(1716年)にすでに織られていたという記録がある(尾道市史)。広幅の帆布を織り上げたのが播州・高砂の工楽松右衛門(1743~1812)であるが、それまでは細幅の木綿布を重ねて刺し子縫いで縫い合わせたものを帆に使っていた。この頃織られていた生地は現在の帆布の定義にあっていたかどうかは不明。〟

「番手とは?」
〝糸の太さを表す単位。綿糸の場合、重さ1ポンド(約450グラム)あたりの長さが1,000mのものが『1番手』で糸の太さが細くなると番手数が大きくなる〟

「デニムのパンツとの違い?」
〝太い糸で織っている点、素材に木綿を使っている点などから帆布とデニムは似ているが、デニムは1本の横糸が複数の縦糸を上下することで、横糸が斜めに走っているように見える綾織りであることが決定的な違いである〟

「号数とは?」
〝織るときに使用する糸の違いによって生まれる生地の厚さのことをいう(グラフ参照)〟
「帆布ってどんなものに使われているのかしら?」
〝鞄や帯芯、相撲の回し、油絵のキャンバスなど身近なものから、小学校の運動で使うマットや跳び箱の手をつくところ、その強度からテントやトラックの幌など産業用繊維に使われている。現在は合繊帆布が中心であるが、昔は自然素材の木綿が中心で適度に湿気を吸収したり、静電気が起きないという特長を活かして荷物のカバーにも多く使われていた。〟
ふたりはハッと思った。今ふたりがもっているトートバッグも帆布製であった。「そうか。船に使われるものとばっかり思っていたけど、こんなに身近なところにあったんだわ」。

ネットカフェをでたふたりは駅に向かった。雪がちらついていた。
「理帆、久しぶりにお話ができて楽しかったわ」
「私も。また連絡くださいね」
改札口で軽く会釈をして、美帆はちょうどホームに入ってきた電車に乗ろうと、階段を駆け上がった。
理帆はその後姿をずっと見ていた。
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